十和田のひびきに誘われて

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日本地図で東北地方を眺めていると、秋田・青森・岩手の中心にポツンと佇む湖があるのがわかる。「十和田(トワダ)」というその湖の名前を初めて聞いた時、その言葉のもつエキゾチックな響きと、そして本州最果ての地に佇むというミステリアスさから、なんだか秘境のような印象をもった。聞くところによれば、十和田湖の名前はアイヌ語からきているようで、「ト(湖)」「ワタラ(岩石)」から、「トワタラ(岩石に囲まれた湖)」と呼ばれていたらしい。今回、その十和田湖の西湖畔を訪れた。

秋田市内から車を走らせること約2時間半、峠を登り切るとともに湖面が姿を表した。深い青色に、時折翡翠や琥珀の色が浮き出て見える。7月のカラッと晴れた朝、発荷峠の展望台はアジア圏からの観光客で賑わっていた。
「この季節に東から吹く風は『やませ』といって、冷害の元となるんですよ」峠を下った湖畔沿い、ブナの木に囲まれた遊歩道を進みながらガイドさんが語った。さっきまでの人気が嘘のような、まるで自分たちと湖しか世界が存在しないような静けさ。
初夏にしては涼しげな風が、足元の土を煌めかす木漏れ日、おしとやかな女性のような湖面のさざ波の音とともに、日常に疲れた身体を包み込む。ぷわっと立ちのぼる土の匂い。「ただ感じるだけでいいんだよ」とささやくような木葉のざわめき。
そしてふと木々の影の中から姿をあらわす、天までひらかれた湖岸線。その都度に装いをかえる湖面の色合いについウットリする。
【十和田湖西湖畔遊歩道】
MAP https://goo.gl/maps/bZuALTRWZL8QFfqR7
TEL 0186-29-3908(小坂町観光産業課)
1時間弱の散策を終えて、小腹を満たしに湖畔沿いのカフェへ。可愛らしい木の小屋と青空を映す十和田湖、山々が描く緑の景色はまるでおとぎ話のワンシーンのよう。湖なのにマリンブルー、そのちょっととぼけた名前も愛らしい。
デッキに座りながら湖面に想いを馳せて待つと、運ばれてきたのはドーム状のアップルパイ。そのまま口に運び、ちょうどいい甘さの味の虜になる。ただただ無言で湖を見つめながら味わいたい美味しさだった。
【十和田湖マリンブルー】
一息ついたところで、もっと湖へと近づいてみよう。最大12名まで乗れるスピードボートに、贅沢にも一人のり。さて出発、と思った瞬間に風の塊がぶつかってきた。船がぐらりとよろめき、そのまま猛発進。思わず叫び、一瞬焦り、そしてあたりを見渡してみると、まるで湖面を低空飛行するトビになったようなスピードで波の上を飛んでいった。
そのまま十和田湖の湖畔沿いをぐるりと周る。昔は豪華客船の船長だったという陽気なお兄さんのガイドトークで、すっかりテーマパーク気分のまま大自然に身をゆだねる。すると、いきなり背後から深緑の影に囲まれ、まるでアマゾンのような入江にたどり着いた。昔から霊場として知られていた十和田湖には、湖畔に数多くの祠や祈願所が点在している。さらに江戸時代の隠れキリシタンが集ったといわれる洞窟までも。
スピードボートで風のようにそれぞれのスポットへと移動し、昔住んでいた人々の歴史や 大地の不思議に想いを馳せる。
湖を囲む崖に、刻印のようにあらわれる地層、そして溶岩が固まったことによりできた幾何学的な模様。50分のツアーの終わりころには、船先に立って両手を広げて風を感じるまで慣れていた。
【リブパイオニア】
西湖畔でのゆったりな時間を味わい尽くしたい方には、天然秋田杉の温もりに溢れたホテルはいかがだろうか。創業80年、昭和の時代に「幻の東京オリンピック」の開催準備とともに建てられたという十和田ホテルは、その折に昭和天皇も訪れたという。入り口を抜けてホールへと出ると、立派な杉細工のしつらえに圧倒される。「部屋の内装は、どれ一つとして同じものはありません。職人のこだわりの表れなんです」と自慢げに語るスタッフに案内されながら歩くと、建物内にブナの木が埋め込まれているのを見つけた。まるで岩石の上に根を張る木々のように、ここの文化というものが自然の上に根を張っていることを示すかのような風景だった。
全ての部屋から十和田湖は見えるものの、最もグレードの高い角部屋からの景色はまるで部屋にいながらにして湖岸でくつろいでいるような空間だ。朝には窓一面を輝かせる極上の朝日とともに、湖面のゆったりな時間を楽しむのもいいかもしれない。
【十和田ホテル】
MAP https://goo.gl/maps/eMsA4GVk6JUZQH5h9
TEL 0176-75-1122
HP https://towada-hotel.com/
「十和田」という響きに導かれるまま始まった今回の小旅行は、湖の見せる様々な色合いと同じように、「うっとり」「ゆったり」「わくわく」という様々な一面をもつ西湖畔の時間に酔いしれた一日となった。
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