ベジタリアンの大好物 – となりの羽後人 #00

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ここは秋田県羽後町、日本の北の果て。山々に囲まれた横手盆地、そこに広がる田んぼの真ん中に、人口1万5千人弱の町があります。昔から受け継がれてきた風景の中に、近年新たな人影が見えてきました。「外国人」です。

「外国人」といっても様々。一度でも海外旅行にいったことのある人だったら、きっと「外国人」「アジア人」や「中国人」「韓国人」と言われて歯がゆい思いをした経験があるかと思います。でも私たちからしても、誰がフランス人なのかアルゼンチン人なのかロシア人なのか、なかなか見分けることは難しいです。だからあんまりいい呼び方ではないのですが、ここではあえてわかりやすく「外国人」と呼ぶことにします。

 

東京へ行くと、外国人で溢れているのがわかります。浅草や新宿にいけば、ワイワイと自撮りする観光客の集団ばかり。コンビニや居酒屋に入っても、全員が外国人留学生のアルバイトなんてことも。2020年の東京オリンピックに向けて、日本は国をあげて外国人を招き入れようとしています。ですから日本の中心地である東京に外国人が増えているのです。でも、何故日本人すら知らないような地方にまで、羽後町まで遠路はるばる外国人がきているのでしょうか?

ここで一つ質問です。みなさんが旅行に出たとき、一番心に残ってることは何でしょうか?

私の場合、一番心に残るのは「ちょっとした冒険」です。数年前、アンコールワットの遺跡を見にカンボジアへ旅行に行きました。もちろん遺跡の美しさやフルーツの美味しさは素晴らしかったのですが、それらは訪れる前から何となく想像できていた素晴らしさです。それよりもやはり心に残っているのは、町の外をふらりと彷徨っている時に出会った風景だったり、たまたま訪れた村の人たちにご馳走してもらった名前も知らない食事だったり、友だちになった大学生たちに連れていってもらったローカルな市場だったりします。今の時代はインターネットが繋がってさえいれば、だいたい「世界のどこで・どんな経験が・幾らで出来るか」わかってしまうものです。だからこそ人々は「自分の知らない世界で・何が待ち受けてるかわからない・出会いと偶然に身を任せた」旅を求めている、そんな気がします。そのような「未知の文化」と「人々の出会い」に溢れた旅の舞台こそが、地方なのです。

 

「未知の文化っていったって、こんな地方には何もないよ」
ついそう思われるかもしれません。でも、本当にそうなんでしょうか?

今年2019年の3月頭に、フランスから舞踏のダンサーの方が羽後町に1週間ほどいらっしゃいました。彼の一番の目的は舞踏を学ぶことだったのですが、日本へ対する執着の強かった彼は、「ただの観光客にはなりたくない、どうすれば日本人になれるのかを学びたい」と言いました。そんな彼のそばに通訳として付き添っていると、不思議と私の目にまで「当たり前」が当たり前でなく見えてきたのです。例えば、食事の場。みんなで「いただきます」と挨拶するのはもちろんのこと、お酌を交し合うこと、酒の肴を分かち合うこと、酒や食事が足りなくならないよう気遣い合うこと、その全てが「食事を一緒に楽しむ」という目的のため。その様子に触れたフランス人ダンサーは心の底から感心していました。

 

また、このフランス人ダンサーはベジタリアンでした。みなさんは、ベジタリアンのお客様に一体どんな料理を出すでしょうか。手軽にサラダや野菜炒め?それとも手間暇かけた、大豆のハンバーグやベジタリアンのご馳走を?

実は彼が一番気に入った料理は「いなり寿司」。コンビニのものから、地域のお母さん方の手作りのものまで、どこでもとにかくいなり寿司。食事の時間が近づくと「今日はいなり寿司ですか?」と目を輝かせていました。それだけでなく、鰹節を除いた冷奴、昆布出汁のだし巻き卵、浅漬けや山菜の和え物、そういったものを1週間食べ続けて、旅の終わりには「日本の食事は世界一だ」と言い残して帰国しました。

 

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外国人の目から見ると、地域の当たり前が思わぬ宝物だったということがよくあります。そんな視点で自分の住む地域を見てみると、案外外国人を受け入れるのにも気が楽になってくるかもしれません。

とはいえ、知らない国の知らない言語を話す人を受け入れるとなると、大変なことがたくさんあるのも事実です。
この連載 となりの羽後人 では、「お隣のあの人は、どうやって外国人を受け入れたんだろう?」という素朴な疑問を、地域の人々の体験談やインタビューを通じて探っていきます。

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